Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

第30回 Hip Joint コラム 2018.03.01

「弘法は筆を選ばず?」

東京医科大学整形外科学教室主任教授山本謙吾先生 写真 画像
山本謙吾
東京医科大学整形外科学教室
主任教授

 現在日本国内で行われている人工股関節置換術の手術件数は年間6万件にのぼるとされています。平均すると全国で毎日150人以上の患者さんに人工股関節のインプラントが挿入されていることになります。手術に用いられるインプラントの種類は、その材質から見れば金属、セラミック、ポリエチレンなどに大別され、形からは長いステム、短いステム、ストレートのステム、カーブしたステムなどがあります。インプラントの表面の性状も様々な種類の加工が施されたものが供給されています。また手術の際に用いられる切開の方法も前方から、後方から、側方からなどというように様々な手技が用いられています。このように患者さんに挿入されるインプラントの種類や手術の方法は極めて多岐にわたっているのが現状です。その理由には、手術を受ける患者さんそれぞれが有している病気の種類や股関節の状態、さらに骨の質や生活環境など様々な背景に応じた選択肢が必要であるということがあげられますが、もう一方ではまだ完全にこれがベストであるという結論が出されていないということもあげられると思います。このような状況の中で各医療施設において次々と様々な新規インプラントが導入され、新たな手術手技も考案され、その結果が学会や医学雑誌などに報告されています。そしてそれらの多くは海外の著名なメーカーが開発した材料が中心となっています。
 もちろん医学の臨床や研究においては独創性の高い仕事が重要視され、それが医師や医療施設の評価のひとつの基準になります。これを追求する姿勢は医療人として非常に大切であると考えられますが、一方で成果を追求することにとらわれすぎてしまい、その材料の信頼性や手術手技の理論を十分に理解しないまま治療に走ってしまう風潮が目に付くことがあります。過去に成績が不良であった材料が別の形で市場に登場し再度消滅していく例も見受けられます。これまでに多くの先輩たちが試行錯誤しつつ積み重ねてきた基本事項を習得しないままに行う医療には時として大きな落とし穴を伴うおそれもあります。
目先の新規性にとらわれることなく、じっくりと自分の目と知識で材料を選択し、患者さんに適用していく姿勢を持ち続けていきたいと思います。「弘法は筆を選ばず」といいますが、いかに優れた技術を有していても「整形外科医は材料を慎重に選んで」頂きたいと願います。


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