Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

第34回 Hip Joint コラム 2018.07.01

「財団30周年に寄せて」

泉田良一先生 写真
泉田 良一
(公財)日本股関節研究振興財団 専務理事
社会福祉法人仁生社江戸川病院
慶友人工関節センター長

 去る6月10日に財団30周年記念式典が盛大に挙行されました。故伊丹名誉理事長が莫大な私財を投じて財団を設立されて30年、財団が一つの節目を迎えられたことをまず慶賀したいと存じますが、これも多くの関係者のご尽力の賜物と感謝と敬意を表したいと思います。またその折り閉会の辞を担うという栄誉に浴しましたが、本稿ではその時お話しした伊丹名誉理事長の人となりについてもう一度纏めておきたいと存じます。
 伊丹名誉理事長は衆に優れた3つの大きな特質をお持ちでした。それらは、胆力、公共心、将来を見通す洞察力ということができますが、以下に一つ一つ素描を試みたいと思います。
 まず先生は第2次世界大戦に召集されて終戦を中支で迎えられました。その時望郷の思いから起りかける捕虜収容所での暴動を取り鎮められるのに尽力されたということです。我々には想像もつきませんが、遠く故郷を離れて収容所に収監され、いつどのようになるかも分からない不安と恐怖の中で、秩序を保っていくことは並大抵のことではなかったと思われます。後年ご自身が主催された教室でも信念を以って厳正にことに当たられた原資ともいうべき胆力はこの辺りで培われたと推測しております。
 次に先生の公共心ですが、7年前の東日本大震災の時、先生はただちに財団で所有されていた東北の土地を廃材の置き場などのお役に立ててほしいと申し出られました。これは自治体の反対に遭って実現しませんでしたが、財団設立に私財を投じられたこと以上に先生の公共心の発露として記憶しています。これは常に公共の幸せを考えておられなければ思いつかないことと頭の下がる思いでした。
 最後に洞察力ですが、先生はご自身のテーマとして3つのことを選択されました。先程「股関節を制する者は整形外科を制する」と東博彦教授がおっしゃっていましたが、まず第一は先生のメインテーマである股関節の研究です。輸入品に席捲されているこの分野で、当初から慈大式の人工股関節の開発を目指したオリジナリティの高い研究を行われました。2番目は慈大分類に代表される骨粗鬆症の研究です。これも大変オリジナリティの高い研究で多くのお弟子さん達を育てられ、最近は骨質の劣化に繋がるコラーゲン架橋の問題の探究で文字通り世界に冠たる業績にも繋がっております。3番目は体操です。先生は舟漕ぎ体操を提唱されていましたが、これは慈恵大の開祖である高木先生が脚気の病因論と予防で多大な功績を挙げられたのち“天の鳥舟”体操を提唱された精神を継承したものと存じております。これもメディカルフィットネス研究所の活動やロコモン体操という形で結実しております。いずれも今日話題になることばかりです。
 振り返ってみると、30年経って世の中がやっと先生の思いに追いついたと考えることができるでしょう。そのような先生が設立し、路線を定めて来られたこの財団を今後も継承し、発展させていかなければならないと存じます。

 是非今後とも変らぬご理解とご支援をお願いいたします。


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