Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

第41回 Hip Joint コラム 2019.02.01

「Wolffの法則」について

冨森 浩二 帝人ファーマ株式会社 特命プロジェクト担当部長  日本股関節研究振興財団理事 写真
冨森 浩二
帝人ファーマ株式会社
特命プロジェクト担当部長

大腿骨近位部の断面スケッチ大腿骨近位部の断面スケッチ(Julius Wolff、1870) Hip Joint コラムも2周目となり、股関節に関することは専門の先生方があらかた書かれているので、少し強引に自分の得意分野に話を持っていくことをお許しいただきたい。これまで多少なりとも骨の研究に関わってきた中で「Wolffの法則」というものを習った。これは、ドイツの解剖学者、Julius Wolff(1836~1902年)が提唱した、“正常にせよ、異常にせよ、骨はそれに加わる力に抵抗するのに最も適した構造を発達させる”という法則である。実はWolffは股関節の最重要部分でもある大腿骨近位部の断面スケッチ(図)から、骨梁の走行が力学的な主応力線の方向に沿って形成されていることから導き出したとされている。
 1870年頃はX線もなく、標本写真とスケッチだけでこの論文を書かれたとのことだが、いつの時代でも研究者の熱量には感嘆してしまう。元々は骨梁の構造に言及されたWolffの法則だが、その概念自体が正しいためか、拡大して解釈されているようだ。プロテニス選手は利き腕の骨密度が高いとか、無重力空間では骨量が急激に減少するといった現象もWolffの法則に適合する事例とされている。さらには、正常な骨のみでなく、骨折が治癒する過程でも同じ概念が通じるようだ。例えば脛骨の骨幹部骨折の治療時、最初は固定して安静にするが、ある程度骨折部に仮骨ができてきたら完全免荷ではなく部分荷重歩行をした方が治癒が速いという経験的事実も「骨は力学的な刺激の応答する」という概念で説明可能である。
 では、一体何がこの法則を支えているのだろうか?おそらくは骨を作る細胞が力学的刺激を感知しているのであろう。正常な骨の場合、骨の中の骨細胞が力学的刺激を感受し、骨を吸収する破骨細胞と骨を形成する骨芽細胞のバランスを調整することで応力に対応した骨構造を形成すると考えられているが、まだまだ詳細は不明のようだ。骨折治癒の場合はもっと複雑で、骨膜にいる骨膜細胞が仮骨を作ったり、骨折の間隙では軟骨細胞が現れて軟骨を作った後で仮骨に置き換わっていくなど複数のメカニズムがかかわっているとされるが、力学的刺激がどの細胞にどう関与しているのかは未解明に近い。とはいえ、皮膚の上からある特定の超音波をパルス状に照射して細胞に力学的刺激を与えると、部分荷重刺激と同じように骨折治癒を促進できることが明らかにされ、臨床現場ではすでに医療機器として利用されている。
130年前の股関節の断面スケッチから連綿と続く医学研究が今後さらに発展して、より多くの患者さんに福音をもたらすことを期待してやまない。


股関節らくらく募金のご案内はこちらから

股関節クレジット募金ご案内 バナー
このページのTOPへ