Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

  
第44回 Hip Joint コラム 2019.5.01

「変形性股関節症「寛骨臼(臼蓋)形成不全に起因する」をふりかえって」

宮崎大学医学部整形外科主任教授 帖佐悦男 先生 画像
帖佐 悦男
宮崎大学医学部 整形外科
教授

 以前は、発育性股関節形成不全(旧;臼蓋形成不全、先天性股関節脱臼)とともに結核性関節炎の患者さんが多かったと報告されています。これらの患者さんが治療を受けなかった場合、成人になると二次性股関節症を発症します。股関節脱臼の治療は、リーメンビューゲル装具の導入や乳児股関節検診の開始により成果が上がっています。ただ、股関節脱臼が根絶されたわけではありません。引き続き新たな予防活動が開始されていますので、これからの将来に期待したいと思います。
 さて、変形性股関節症の手術療法として、主に関節固定術、関節温存手術や人工関節置換術があります。以前は若年者で末期股関節症のため日常生活に支障をきたしている場合は関節固定術(関節を固定し痛みをとる手術法)が施行されていました。この方法は、除痛効果は優れていましたが、「動く」という関節機能が損なわれるため、固定術後長期経過では反対側の股関節や腰、膝など隣接関節に悪影響を及ぼし課題となっていました。一方、関節温存手術である骨切り術(大腿骨、寛骨臼)は、自分の関節で再建できることが最大の利点です。軟骨が残存し股関節症が進行していない前・初期の股関節症の時に骨切り術を実施しますと、長期にわたり良好な成績が報告されています(図1)。しかし、患者さんが痛みを感じた時には関節症が進行していることが多く、自分の関節のみで治療する骨切り術では、長期にわたる関節機能(痛みなく動く)の温存には限界がありました。その後人工股関節が開発されたことにより関節温存が困難な多くの患者さんに福音がもたらされました(図2)。脱臼や摩耗により早期再置換を余儀なくされる症例もありますが、手術法やインプラントの改良・開発によりかなり改善してきています。関節症が進行していても年齢を考慮して、以前は骨切り術などを選択していた症例に対しても人工股関節置換術を実施するケースが増え、社会活動量の多い患者さんにとっては、痛みの軽減さらには関節機能の回復といった多くの福音がもたらされるようになってきました。今後のインプラントの開発や改善に伴い、長期に渡り安定した成績が獲得できる人工関節が登場し、壮年期で股関節症が進行し他の関節温存手術の適応がない患者さんにも用いられるようになることを期待します。

33歳女性 右寛骨臼形成不全に伴う股関節症術後20年経過し、支障なく日常生活をおくられている。画像

62歳女性 左変形性股関節症 幼児期に手術の既往あり 著明な脚長差も認めるが、術後18年経過し、支障なく日常生活をおくられている。画像

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