Hip Joint コラム

股関節に関する有識者の方々が、様々な切り口で股関節をコラム形式で解説します。

  
第53回 Hip Joint コラム 2020.02.02

「国内におけるカダバートレーニングの現状」

徳島大学病院クリニカルアナトミー教育研究センター 後東知宏 画像
後東 知宏
徳島大学病院
クリニカルアナトミー教育研究センター

 カダバートレーニングとは、ご遺体を使用した手術手技トレーニングのことです。平成24年に「臨床医学の教育研究における死体解剖のガイドライン」が公表されてから、国内においても手術手技トレーニングや研究目的での遺体解剖が可能となりました。我々外科医にとって、ご遺体を使用した手術手技研修は、より生体に近い状況でのトレーニングができる理想的な研修環境であり、特に若手の手術手技習得には極めて有効な手段であると考えます。意外に思われるかもしれませんが、平成24年までは、国内において医師が手術手技研修目的で遺体解剖を行うことはできなかったのです。医療の進歩は日進月歩であり、様々な手術手技において最新技術が導入され発展してきている一方で、手技の複雑化や技術伝達の困難さが問題とされ、未熟な技術にも関わらず過剰な適応の拡大により、重篤な合併症や医療過誤を引き起こす事例も報告されています。より専門化・複雑化している先進治療において、正しい知識をもとに安全で高度な手術手技が習得できるトレーニングシステムの構築は必要不可欠な課題であり、その中で国内でのカダバートレーニングの重要性はより一層増してくると思われます。 今後の課題として、国内でのカダバートレーニングの垣根はまだ高く、一部の大学病院等でしか利用できない現状があり、今後は一般病院の医師や海外からの医師等が幅広く利用できるような体制を整備する必要があると思われます。また、企業と連携した医療技術開発等は、利益相反に関する明確なルールがいまだに整備されていない状況です。現在、厚生労働省や各学会等でルール作りの議論がなされており、今後の動向が注目されます。
 最後に、このようなご遺体を使用した医療教育や研究は、献体される故人の尊い遺志のもとに成り立っています。ご遺体を扱う際には、常に感謝の念を持ち、決して礼を失することなく、真摯な態度で取り組むことが最も大事なことであり、たとえ一人でも不遜な態度で非礼な振る舞いによる問題を起こせば、これまで積み上げてきた様々な成果や信頼を瞬時に失うことになるということを我々利用者全員が肝に命じておかなければなりません。今後、国内においてカダバートレーニングシステムが広く普及し、健全な運営のもと医療の発展に役立つことを期待します。


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