第50回 Hip Joint コラム

人工股関節の術後合併症
一青勝雄
順天堂大学客員教授
 人工股関節手術を受けた場合のメリットとデメリットを十分理解し納得した上で手術に臨んで頂きたいと思います。

 今回はそのデメリットである合併症についてお話しします。合併症には術後数年から数十年後に起こる長期的な合併症と、術中又は術直後から起こる短期的な合併症があります。

 長期的な合併症には人工関節のゆるみがあります。ゆるみの原因としては、骨と人工関節の硬さの違いにより接触面に隙間が生じた機械的緩みと、関節の摺動部に使われているポリエチレンの摩耗粉による接触部の骨溶解が生じたゆるみがあります。現在使われている人工股関節は金属材質、表面加工、形状等の進歩により機械的ゆるみを生じにくくなっています。又摺動部のポリエチレンにガンマー線を照射することにより、ポリエチレンの磨耗量は顕著に低下し、骨溶解によるゆるみも激減しました。これらの改良により人工股関節の耐用年数は10~15年から20~30年以上に延びました。人工股関節のゆるみは初期には無症状の事が多いので、骨との接触面に隙間がないか定期的にレントゲン検査し、骨の老化がないか骨粗鬆症のチェックをすることが大切です。


 術中術後に起こりうる短期的合併症には以下があります。



  1. 脱臼:特に後方進入で手術した場合、術後人工股関節周囲の筋力が低下している状態で脱臼誘発不良肢位(屈曲、内転、内旋)をとった場合、後方に脱臼することがあります。関節周辺の筋肉トレーニングにより関節を安定させ予防します。

  2. 感染:人工股関節に細菌が取り付く事です。予防が一番大切で、晩期感染症に対しては日頃の体調管理により抵抗力を獲得しておく事が重要です。特に糖尿のコントロール、虫歯や歯周病等は早めの治療が必要です。

  3. 深部静脈血栓症(通称エコノミークラス症候群):下肢の深部静脈に血栓を生じ、この血栓が肺の血管につまって肺梗塞を起こした場合、即死状態になる事があります。下肢に空気マッサージ器を付けたり、抗凝固剤を使用して予防します。

  4. 輸血:術中の出血は200~400cc程度ですが術後の出血を含めると600~1000cc以上になる事があるため、予め自己血貯血をしておくと安心です。


 担当医より十分説明を受け、合併症とは、特に問題なく行われた手術に生じうる不具合の事であり、手術手技の失敗で生じたものではないという事を十分理解した上で手術を受けられることをお願いしたいと思います。

Hip Joint コラム履歴

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第101回 「原因の分からない股関節痛、急速破壊型股関節症の始まりかもしれません」

第100回 「新・繁文縟礼(はんぶんじょくれい)時代」

第99回 「当財団の股関節海外研修助成について」

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第97回 「人工股関節置換術に想う」

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第95回 「大腿骨近位部骨折のリスクを下げるために出来ること」

第94回 「手外科医として,整形外科研究者として股関節外科から学ぶ」

第93回 「人工股関節置換術の進歩と課題:第96回日本整形外科学会学術総会から」

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第11回 「国産医療機器メーカーとして」

第10回 「「股関節」という言葉で思いついたつれづれなること」

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第5回 「人工股関節全置換術より高い満足度を求めて」

第4回 「人工股関節置換術と関節温存手術」

第3回 「乳児股関節脱臼―歴史は繰り返す―」

第2回 「股関節疾患今昔」

第1回 「肝心要は股関節から」


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