黒田 龍彦
旭化成株式会社 研究・開発本部 ヘルスケア研究開発センター 臨床推進部
人工骨頭置換術、場合により人工股関節置換術が行われる疾患の一つに、大腿骨頸部骨折があります。この大腿骨頸部骨折は、高齢化に伴って骨の密度が減り、骨粗鬆症になることで発生率が高まることが知られています。
大腿骨頸部の骨折が発生すると、日常生活に必要な運動機能に制限がかかったり、反対側の骨折が起きる例も報告され、その結果、最悪の場合には介護状態や、寝たきりになってしまうため、骨粗鬆症そのものを予防したり、早期に治療を行うことが大きな目標となっています。
諸外国のデータを比較すると、欧米を中心にこの大腿骨頸部骨折の発生頻度が低下傾向にあることが報告されています(図)。一方で、日本では、過去から現在まで、ずっと増加傾向が続いており、2016年には、日本全体で大腿骨頸部骨折が年間17万人に発生していることが報告されています。
日本でなぜ、骨折率が低下しないかに関しては、2つの要因があるとされています。一つの要因は、骨粗鬆症そのものの予防や治療が十分に行われていないことが挙げられています。もう一つの要因は、世界でも類をみない超高齢化社会の進行であり、そのスピードに予防や治療などの対応が追い付いていないことが原因ではないか、と言われています。実際に65歳以上の高齢者の割合は、2019年に28.4%を占めており、さらに2040年には、35%を超えるという試算があります。
この日本の超高齢化社会の進行に関しては、悲観的な意見もありますが、一方でこれから世界で進行する高齢化に対するフロントランナーとしての意味を見出す意見もあります。現在の日本で進む、労働環境の変化や社会インフラの整備等は、今後の世界のモデルとなるというものです。
人工骨頭置換術・人工股関節置換術においても、特に高齢者に対する医療の技術やノウハウは、今後の世界のモデルとなることは間違いありません。日本股関節研究振興財団の支援に基づく臨床研究から生まれるデータが、これからも世界の先駆けとなることを願います。