令和という年号に変わりすでに1年半以上が過ぎました。平成という時代は、多くの分野で目まぐるしい動きが続きました。昭和までのアナログの世界からデジタルの社会へと急速に移行し、何事もスピードが重視され、さらに合理化、グローバル化、IT化、などが声高に叫ばれ、積極的に推進されてきた30年間であったと思います。医療の世界でも多くの目覚ましい技術革新がみられました。股関節医療を行う上でも、様々な診断や治療にITを駆使した最新のテクノロジーを集約した機器が配備された施設が増えてきました。その結果、多くの疾患においての治療成績も着実に向上してきていると思われます。令和の時代にはさらに大きな飛躍が期待されています。しかしそのような社会情勢や医療背景の下で、結果を急いで大股に歩いた一歩と一歩の間に決して踏み飛ばしてはならない大切な「何か」が常にあるということも忘れてはならないと思います。医療においても合理化が進んだ病院システムの中で、その「何か」が患者さんの訴えや苦痛であることは決して許されないと思います。このことを常に念頭に置いて、機器のみに目を向けるのではなく患者さんと向き合い、堅実に一歩ずつ歩みを進めていきたいと思います。
大学病院に勤務する立場では、医学生や若手医師の教育も重要な責務となりますが、この医学教育に関連して、グローバル化という言葉の独り歩きにも私は危惧を抱いています。いろいろな機会にお話しさせていただいておりますが、グローバル化というのは一定のルールの下での標準化ということだと思いますが、ルールに則りながらも時流に流されない個性を維持していなければさらなる進歩は期待できないと思います。IT機器に依存するだけでなく、患者さんの病状に応じた柔軟な対応力、適応力を習得するには盲目的に標準化に走るのではなく、多様性を尊重した学生、医師教育が不可欠であると考えます。日本股関節研究振興財団の活動にもこのような気持ちをもって関わらさせていただきたいと願っております。いずれにしましても、令和という新しい時代に入り、平成から続く大きな時代のうねりに追従するだけでなく、時にはこれに抗う気概をもって患者さんに接していきたいと思っております。