忽那 龍雄
公益財団法人日本股関節研究振興財団 相談役
変形性股関節症(本症と略)は、股関節を構成している2つの骨、大腿骨の頭の部分と骨盤の骨である寛骨の外側面にあるお椀状のくぼみの部分(寛骨臼)が変形して関節の働きが悪くなり、痛みや歩行、起居動作などの能力障害を引き起こす進行性の疾患であり、病期を前期、初期、進行期、末期に分類します。原因としては、我国では臼の土手の部分の形成不全を素地にして発症するものが数多く見られます。この様な本症を根治することはできませんが、骨切り術、人工股関節など手術療法の効果は高く評価されています。一方、手術を行わない保存療法は効果が不明確であり、いまだに確立されていません。そこで、本症の保存療法について自験例の治療成績に基づき意見を述べます。
1981年から1997年までの期間に本症455名(15才~87才)に対して①痛みを取り除く、②病気の進行を抑える、③関節機能を再建して能力障害を回復させる目的で、表の如く保存療法に手術療法を組み合わせながら治療を行いました(表)。 保存療法の内容は①股関節の負担を軽くするために、椅子やベットを使用する生活様式、肥満者にはBMIを指標に体重調整、歩行時間の制限などの
生活指導から始めます。次いで個別的に、②二次的炎症や不安定性による痛みには
抗炎症鎮痛剤の内服、③股関節の運動制限で屈曲拘縮には腹臥位による
ストレッチ、下肢筋力増強には肢(アシ)上げや股(マタ)開きの
運動療法、さらには④
杖・ヒールクッション・ヒップサポータ(股関節外科学第一人者の故・伊丹康人先生は3種の神器であると高く評価)を組み合わせます。この様な保存療法を継続しながら人工股関節置換を行った進行期、末期の80名について術前の保存療法の効果を調べますと、約4割には夜間痛の消失などの疼痛緩和、及び平均3年間の関節再建手術を待機、なかには最長9年間も待機できた末期例もみられました。保存療法には疼痛緩和と進行遅延の効果、さらには終局的治療である関節再建手術を待機できる効果もみられました。
我国の「本症診療ガイドライン改訂2016」では、保存療法7種類の効果を検証し推奨の強さ(Grade A強く推奨~D推奨しない)を定めていますが、患者教育はGrade A、運動療法、物理療法、歩行補助具、薬物療法はGrade B、関節内注入はGrade C、サプリメント(グルコサミン、コンドロイチン)は効果に一定の見解が得られていない、と解説しています(三谷茂他:日整会誌92巻2018年)。
保存療法は本症治療上の土台、即ち基礎療法として第一に選択すべき重要な療法であり、痛みが取れたとしても関節負担軽減などの療法は継続すべきです。