私は股関節疾患の中で、大腿骨近位部骨折について研究を行っています。大腿骨近位部骨折の最も多い原因は高齢者が転倒・転落により発症した脆弱性骨折によるものです。高齢者は大腿骨近位部骨折を発症する前にすでに、サルコペニアやフレイル、認知症、脳血管障害、神経変性疾患を合併していることが多く、これらの疾患により転倒・骨折が引き起こされます。そして、骨折後には認知症の悪化、嚥下障害、誤嚥性肺炎、再転倒による骨折を発症することがあります。大腿骨近位部骨折を発症したということは、これらの疾患がすでに存在する、あるいは、これから発症する可能性があることを考えなくてはなりません。
多くの合併症をマネージメントするには多職種による評価・介入が必要です。理学療法士による歩行訓練、作業療法士による排泄動作訓練(排泄障害は入院期間の延長と、施設入所の最も大きな要因の一つです)、言語聴覚士による嚥下障害の評価・介入、歯科医師、歯科衛生士による残歯、噛み合わせ、義歯の確認、栄養士による必要なタンパク質量やカロリー量の評価を行います。看護師や介護士による日常生活動作(Activities of daily living : ADL)の向上、ソーシャルワーカーによる家族介護状態、家屋の確認(手すりの有無や、屋内の段差の有無を確認)、心理士による認知・精神面の評価、介入も重要です。
一方で、超高齢社会の我が国において、今後大腿骨近位部骨折患者数は増加の一途をたどることが確実です。一人一人の医療やケアを手厚くすることは医療・介護費用が増加することでもあります。骨折や手術直後に多職種によりまず評価を行い、必要な介入と不必要な介入を見極め、必要な介入を短期集中して行い、早期のADL自立を目指すことが重要です。そして早期退院ができるような介入方法の構築が必要です。
私たちの研究チームでは、全国で統一された股関節疾患発症・治療後の評価・介入基準を作成し、最小日数で最大の効果があるリハビリテーションを含めた介入方法の作成を目指しています。
