第75回 Hip Joint コラム

「2022年新年の思い」
別府諸兄
(公財)日本股関節研究振興財団 理事長、聖マリアンナ医科大学 名誉教授
 明けましておめでとうございます。今年も財団を宜しくお願い申し上げます。

 さて、今年の2月で故伊丹康人先生が公益財団法人日本股関節研究振興財団を創設して35年であります。この日本股関節財団会報創刊号において「当財団の目指すものは、股関節に関する疾患を組織的に調査研究し、的確な治療法を確立することによって、股関節の病気で悩む方を一人でも少なくし、より良い社会を創造することである。」と述べています。
 この間、当財団では股関節の研究に関する助成事業、海外研修助成事業、国内研修助成事業等を行い、その研究成果報告書の作成、股関節疾患の予防や治療方法の開発を行い、若い股関節の研究者の育成・向上を行ってきました。また、一般の方々に股関節の病態や運動器の健康寿命を延ばすための股関節市民フォーラム、体操指導者研修事業も行ってまいりました。
 特にこの股関節財団のモットーは股関節に因み、「いつまでも元気で歩くために」であります。この考えは股関節疾患の基本でありますが、高齢社会になり健康寿命延伸のためには益々重要な意味をなしています。
 高齢者は、「寝たきりになると認知症になりやすい」と言われます。そして「よく歩くと認知症になりにくい」ことが最近の研究によってわかってきました。70~80歳の女性の認知機能テストと日頃の運動習慣の関係を調べた東京都健康長寿医療センターの研究によると、日頃よく歩く人はテストの成績が良く、少なくとも1週間に90分(1日あたり15分程度)歩く人は、週に40分未満の人より認知機能が良いと報告されています。また、歩行が脳のアセチルコリン神経を活性化して海馬や大脳皮質の血流を増やすのではないかと考え、それを証明する実験が報告されています。その方法は、ラットにトレッドミル(ランニングマシン)の上を歩かせて、その際の海馬の血流を測定するものです。歩く速さを、「遅い」「普通」「速い」の3段階に分けて、それぞれ30秒間歩かせてみます。すると、いずれの速さで歩いても、歩行中の海馬血流が増加しました。海馬の血流は、歩行開始直後から増えはじめ、歩行をやめると徐々に元に戻ります。「普通」の速さで歩いた時に海馬のアセチルコリン量を調べると、増えることがわかりました。つまり、無理のない歩行を行うと、海馬のアセチルコリンが増え、海馬の血流が良くなるのです。 興味深いことに、老齢のラットでも、若いラットと同様の結果が得られました。無理せずゆっくり歩くことは、年齢に関係なく脳の血流を増加させるのです。
 この2年間に新型コロナウイルス感染拡大により、外にでて歩く機会が減少し、自宅にこもることが多かったと思います。是非とも、新型コロナウイルス感染が一日も早く一段落し、「いつまでも元気で歩くために」を実践できる状況になることを祈念しております。

 今年も何卒、ご支援の程、宜しくお願い申し上げます。

参考文献

Nakajima K, Uchida S, Suzuki A, Hotta H, Aikawa Y: The effect of walking on regional blood flow and acetylcholine in the hippocampus in conscious rats. Auton Neurosci, 103: 83-92, 2003 Jan.

Hip Joint コラム履歴

第101回 「原因の分からない股関節痛、急速破壊型股関節症の始まりかもしれません」

第100回 「新・繁文縟礼(はんぶんじょくれい)時代」

第99回 「当財団の股関節海外研修助成について」

第98回 「いつの日か花開く研究」

第97回 「人工股関節置換術に想う」

第96回 「変形性股関節症の保存療法」

第95回 「大腿骨近位部骨折のリスクを下げるために出来ること」

第94回 「手外科医として,整形外科研究者として股関節外科から学ぶ」

第93回 「人工股関節置換術の進歩と課題:第96回日本整形外科学会学術総会から」

第92回 「股関節を丈夫にして健康寿命を延ばしましょう!」

第91回 「骨粗鬆症患者の骨折の危険性について」

第90回 「手外科医からみた股関節外科」

第89回 「エコー診断・治療のすすめ」

第88回 「人工関節材料の開発における日本の貢献」

第87回 「赤ちゃんの股関節大丈夫ですか?」

第86回 「人工股関節 『脱臼には注意しましょう。』」

第85回 「ロボットリハビリテーション 股関節疾患への応用」

第84回 「お笑い番組での人工股関節の話題」

第83回 「人工股関節の寿命を長期化する取り組み」

第82回 「人工関節インプラントの国産化の必要性」

第81回 「手術はレントゲン写真ではなくその人を!」

第80回 「骨粗鬆症治療中に注意が必要な骨折−大腿骨非定型骨折−」

第79回 「非対面型コミュニケーションの課題」

第78回 「我が国に寛骨臼形成不全が多いのは、何故?」

第77回 「超高齢社会における股関節疾患の未来」

第76回 「コロナ禍の整形外科」

第75回 「2022年新年の思い」

第74回 「人はなぜやせられないのか?」

第73回 「脆弱性骨盤骨骨折に思う」

第72回 「骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折の予防と治療」

第71回 股関節疾患に関する基礎研究

第70回 「日本人工関節登録制度をご存知ですか?」

第69回 子どもや孫が「家族歴」が理由で
股関節健診にひっかかった!!時に読む記事

第68回 「姿勢と呼吸」

第67回 筋肉が衰えればすべてが衰える

第66回 人工股関節全置換術術後でも足の爪が
自分で切られない患者様に対する自助具を開発しました!

第65回 人工股関節は生身の股関節より性能が良い!

第64回 2021年新年の展望

第63回 股関節と尿失禁(尿漏れ)の意外な関係

第62回 大切な「何か」

第61回 大腿骨近位部骨折と骨折リエゾンサービス

第60回 私の股関節と剣道 第2報 2週間の入院経験

第59回 コロナパンデミックとスペイン風邪

第58回 「ヒップの摩耗の問題:本当にあった話です」

第57回 赤ちゃんの股関節を守るため、生まれてすぐからの予防を!

第56回 コロナ、ステイホームで思うこと

第55回 高齢者の骨粗鬆症と大腿骨頸部骨折

第54回 変形性股関節症に対する温泉療法について

第53回 国内におけるカダバートレーニングの現状

第52回 2020年(令和2年)新春明けましておめでとうございます。

第51回 「ヒップペイン」

第50回 人工股関節の術後合併症

第49回 『きょうよう』・『きょういく』と股関節

第48回 股関節の痛みとロコモティブシンドローム

第47回 股関節の神秘

第46回 生き方が役に出る

第45回 変形性股関節症に対する骨切り術とテクノロジー

第44回 変形性股関節症「寛骨臼(臼蓋)形成不全に起因する

第43回 3Dプリンターの医療機器への応用

第42回 中間管理職から見た股関節手術を取り巻く教育の現状

第41回 Wolffの法則

第40回 医者と弁護士

第39回 骨の銀行があることを知っていますか?

第38回 悠々閑々外来の妙

第37回 股関節手術でAIは整形外科医を超えられるか?

第36回 ステロイド治療に伴う大腿骨頭壊死の発生予防を目指して

第35回 股関節手術と今後の健康維持

第34回 財団30周年に寄せて

第33回 大腿骨近位部骨折(足の付け根の骨折)は早く治療を!

第32回 腰痛は人間の宿命です-腰椎・骨盤・股関節の連携-

第31回 股関節の手術と健康寿命

第30回 弘法は筆を選ばず?

第29回 大腿骨近位部骨折が増加しています-50歳を超えたら骨折予防-

第28回 呼吸を整え体を動かそう

第27回 人工関節の寿命は予測できるの?

第26回 人工関節手術後の早期社会復帰と保険医療制度の疲弊

第25回 赤ちゃんの股関節脱臼に思う

第24回 新しい高齢者像を求めて、メディカルフィットネス 医学体操の活動

第23回 指定難病の特発性大腿骨頭壊死症をご存知ですか?

第22回 人工関節置換術の適齢期は?

第21回 あなたはサルコペニアですか?

第20回 赤ちゃんの股関節脱臼に注意しましょう

第19回 股関節手術の思い

第18回 いつまでも健やかに

第17回 「セメントレス人工股関節」

第16回 「骨切り術も再生医療です!!」

第15回 「骨粗鬆症の激増と過激な減量、ビタミン・ミネラル不足」

第14回 「大腿骨頭はどうして球形なの?」

第13回 「人生いろいろ、手術もいろいろ」

第12回 「股関節疾患の過去、現在、未来」

第11回 「国産医療機器メーカーとして」

第10回 「「股関節」という言葉で思いついたつれづれなること」

第9回 「股関節のインプラント治療」

第8回 「患者会としての30年」

第7回 「私の股関節と剣道」

第6回 「股関節唇損傷自己体験記」

第5回 「人工股関節全置換術より高い満足度を求めて」

第4回 「人工股関節置換術と関節温存手術」

第3回 「乳児股関節脱臼―歴史は繰り返す―」

第2回 「股関節疾患今昔」

第1回 「肝心要は股関節から」


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